鬼の恩返し







そして、次の日のことだ。
せめて、数日世話になったこの部屋の掃除だけでもしていこうか。
と思いついたが崩壊した部屋を掃除するのは無意味そうだ。

変わりに、ザビー城の近辺を歩き回ることにした。
一月ほどずっと、出られなかったのだ。散歩くらい出てもいいだろう。


城を出て、私でも登れそうな、大きな枝の木に登った。
枝と枝の間に身を入れて、落ちないように木の幹に身体を預ける。
ここは静かだ。未来とは大違い。

風と葉の揺れる音が聞こえる。
時たま誰かの大声が聞こえてきたりして、口の端に笑みが浮かぶ。
真田氏が、お館さまと殴りあいしてるのかな。


「・・・・・・・・」


音が遠のく。風が心地いい。身体がどこか深いところへ、おちていく。
私はそのまま意識を混沌の闇へ落とした。


・・・



「ったく、よく寝る女だぜ…おら、起きろって」


何かデジャヴめいたものを感じながら目を覚ます。
目の前に、元親さんが居た。


「おはよぅ」

「おぅ」


同じ木の上で、何してんだこの人は。
そう思いながら話し掛ける。


「また何かあったんですか?」

「いや、そうじゃねぇ」


じゃあ、何?眠い眼(まなこ)をごしごし擦って元親さんを見る。
あーだのえーだの言って、頭をガシガシ掻いていた。何がしたいのだ、この男は。
じぃっと相手が何を言い出すか待つ。


「あんたは、俺の命の恩人だ」

「はぁ」

「礼をしてぇとは思うが、何をすりゃいいか思いつかねぇ」

「はぁ」

「だからよぉ…行く宛が無いんなら、俺んとこに来いや」

「はぁ…え?」

「住む場所も、食事も保障してやる。
そりゃ、女の扱いはよくわかんねぇし部下は野郎ばっかだけどよ、決して悪いようにはしねぇ。
なあ、どうだ?」

「え…と」


頭がついていかない。どういう事だ。
あー、うん。つまり、


「良いん…ですか。一緒に、ついてって」

「おぅ」

「嘘じゃ、ないですよね」

「嘘ついてどーすんだよ」


苦笑を浮かべる元親さん。
あぁやっぱり、この人は白鴉だよ





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