突如、背筋が粟立つ感触
その日も松永さんに呼ばれて、私は広間に来ていた。
珍しく眼鏡を奪われる事は無かったが、変わりに松永さんのお宝自慢話を聞くはめになった。
すみませんね、物の文化価値が分からない人間で!
等と内心拗ねていると、慌しく松永さんの家臣がやってきた。
「ま、松永様」
「どうした、騒々しい」
「はっ、織田信長公より使いの者が参られました。待つよう申し上げたのですが…」
そこまで言うと同時に、曲がり角からぬらりと現れる影があった。
それは、見知った人で。
「おや」
「ぁ」
光さん、もとい明智光秀だった。
「なんだ、卿か」
「お久しぶりですね、久秀公」
ゆらゆらと上半身を揺らしながら近づいてくる光さん。
はて、私はいったいどうしたものかと二人の顔を交互に見やれば、
「、君はもう下がって良い」
彼と話をすると松永さん。
「はい。…失礼します」
そう言って立ち上がり、部屋を出る。
光さんの横をすれ違う時ちらりと彼の顔を盗み見たが、特に何の色も浮かべてはいなかった。
友達である、とわざわざ松永さんに告げる必要もないし、
向こうも何も言ってこないのだから、こちらも何も言うべきではないだろう。
と、私はまた前を向いて部屋に戻る事にした。
は気付いていなかったが、すれ違った後光秀はその後姿を見つめていたのだった。
廊下の角を曲がり、その姿が見えなくなると松永の方を向き直り一言。
「アレは?」
「あぁ、私のお気に入りだよ」
「此処に来るたびに、あなたのお気に入りは違うようですが」
光秀が揶揄するようにそう言えば、松永はさてそうだったかな、とはぐらかす。
ふと光秀は考え込むそぶりを見せて、また一つ問う。
「飽きたら「壊す」
どうするのか、と光秀が最後まで言う前に、悩む仕草を微塵も見せず松永はきっぱりと答えた。
「ほう…」
「私は気に入ったものを盗られるのは嫌いでね。他人の手に渡るならば―――」
自らの手で叩き壊す。と獰猛な色を瞳に浮かばせる。
他者を破壊する事に愉悦を覚える男は少女が壊れる姿を想像したか、どこか恍惚とした笑みを浮かべた。
「おやおや、怖いですねぇ」
「なに、卿ほどではないよ」
「ククク…しかし随分と可愛がっている様子でしたが、それでも壊すおつもりですか?」
飽きたとて、手元に留めておかないのかと更に問うた。今日の彼は何時にも増して饒舌だ。
その問いに、松永は低く笑う。
「卿は何か勘違いをしている。…その逆だよ」
人と物がいつ壊れるか…これを考えると、愛でよう気にもなるものだ
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