例えばある一つのBADエンド







望マレタラ

世界にずっと子供である事を強要された少女。

今度は世界に大人になる事を強要された。

旧き世界は退き、「アイネ」という新世界が訪れた。



―――アイネという“個”は“全”となった。



彼女の世界に、一匹の黒猫がいた。頭に冠を戴く小さき王。

彼は一人だけになった彼の領土を見渡す。


あの軽やかな足取りの少女が、

陽だまりのように明るい娘が、

彼を選んだ彼女が、

もう、何処にも居ない。



―――彼を「王様」と呼び慕った姿は消えた。



心の何処かにぽっかりと穴が空いている。

彼は何時だったか、彼女に聞かせた言葉を思い出していた。


「“此処”に居なくとも、“此処ではない場所”に必ずいる。存在が消える事などない」


いつの間にか世界に浸透していた迷信。その理由が、今分かった。



―――例えば、兎を失った鷹のように“此処”に残された者たち。

みな、そうとでも思わなければ“活きて生きられなかった”のだ。



傍に居なくとも、会えなくとも、見えなくとも。

必ず、何処か見知らぬ場所で“活きて生きている”。


そう思うだけで、みな少し、ラクになれた。




訪レタラ *病んでる系。グロ注意

訪れたかもしれない未来。

哀しい恋心の結末。

消える前に喰われた兎。



ある日、鷹が目覚めると傍に兎が居た。


「…なんで?」


兎は、世界から消えたはずだったのに。

規則正しく上下に揺れる、蒼い毛並み。

それはまさしく、艶花だった。


「ん…鷹さん?」

「…艶花」


起きた兎は欠伸を一つ。それから照れくさそうに笑った。


「ふふっ・・起きた時に誰かが傍に居るのって、嬉しいんだね」


その言葉で、グラオは一つの結論に辿りつく。



兎が、あの空へ連れて行ってくれと懇願した夜

拒む事で訪れた朝。世界に兎を消された日の始まり

繰り返し考えた、あの時攫っていたら訪れたはずの朝



艶花に気付かれぬよう、さり気なくクチバシで羽を引っ張ってみた。痛い。

これは、夢じゃない。


柔らかな毛に頭を擦りつけてみる。暖かく、安心する匂いがした。


「鷹さん?」

「名前で、呼んで」


ちょっと戸惑う空白の時間。呼び慣れないと、気恥ずかしそうな声で鳴く。


「グラオ」

「ん」


グラオが幸せだと言うと艶花は優しく微笑む。

そして幸せと共に、鷹は絶望を思い出した。


これから先、遠くない未来に、兎は世界から消える。

“世界が兎を必要としなくなる”。

また再び、あの後悔を味わう。


そう思ったとき、鷹の心にある選択肢が現れた。

他にも選ぶ道はある。が、それが一際輝いて見えた。

だから鷹はそれを選んだ。


「艶花」

「なに?」

「俺のものになって欲しいんだ」

「やだなぁ…攫われた時から、僕はもうグラオのものだよ?」

「…そう」


艶花の意思は確認した。俺のものだと、今言ったじゃないか。


「じゃぁ」

「え?」


柔らかな首に喰らいつく。ギリギリギリギリ、力を込めて。

捕らえた獲物は、逃げないようにしないと、ね。


「ぁ――…っ、な、ん・・で?」


ひとつ泣いて、ぱたりと兎は動かなくなった。

鷹は片足で兎を押さえ、“至福”を味わい始めた。


「世界に奪われるくらいなら」



消えてしまうものは、消える前に



「俺のものなのに、失ってしまうなら」



失うものは、失う前に



「そうなる前に、“俺”にすれば良かったんだ」



一つになればいい



「これからは、ずっと一緒だね」



俺の一部となって、ずっと…





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