断片が語る彷徨者
空想ノ港
砂塵舞う荒野と砂漠
枯れ果てた海に漂う幻想の水
蜃気楼の港町
夜明けと共に消え去る幻
立ち止まり思い浮かぶ憧憬
在りし日に存在していた、光に満ち溢れた旅路
彷徨者はただ、郷愁の想いに心を馳せる
ナニ故ニ
目当てのものを見つけて彷徨者は哂う
歪んだ歯車が奏でる音は
周りすらも歪ませてゆく
軋んだ音を吐き出すそれを
ひとつ、摘み上げた
『お前が亡くなれば元通りだ』
彷徨者は歯車を握り潰す
パキリ、と音を立ててそれは粉々になった
辺りには規則正しい音が戻り始める
『…つまらないな』
不変と閉鎖と並行を守る彷徨者はため息をついた
そろそろこの仕事にも飽きてきた、と
戻ル事無カレ
此処から旅立つ者の旅路を彷徨者は祈った
迷い蛾の森の奥に
海ネコの群れの先に
二つの月、三つの陽に
彼(彼女)らがどうか、此処に還らぬよう願った
旅立つ者は、旅立つ故に旅立つ
留まる者は、留まる故に留まる
旅立つ者が還って来た時、彼(彼女)らは既に旅立つ者ではない
彷徨者はただ、切望した
語リ手
その彷徨者は異端であった
“人の感覚で言う異形”が“正常”である種族
肉ならざる身体。朱ならざる血液。彼らは人類ではなかった。
その中にヒトの姿をした個体がいた
闘争を礎にする種族の中で数少ない、自発的な戦いを放棄したソレ
多大な功績を残したモノ。凄惨な殺戮を犯したモノ
それらを歌い語り紡ぐことを生業としてきた
故に、同胞から名づけられた異名は――― シエラザード
彼女は語り紡いだ。彼女が最後の個体となるまでの長い、永い時を
その果てしない生命の内側で、彼女は何を思い、何を望んだのだろう
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