牢の中の鬼
ザビーの間(ま)とは丁度反対側に位置する場所、そこは鉄の牢が建ち並ぶ牢獄だ。
ザビー教団に入ることを拒んだ人たちが入っているという。
あぁそういえば、近寄るなって言われてたっけ…まぁいいか。
城を隅々まで知っておきたいが故に足を進めた。
「…!」
一番奥のそこには、画面越しに見慣れた銀髪。
うなだれている為わからないが、恐らくその左眼には顔を覆う布。
西海の鬼、と呼ばれる男がそこにいた。
ふらふらと近寄り、『鬼』との間を隔てる鉄の柵に手をかけた。
何度も揺さぶられた後なのだろう、ぐらついた金属の棒がカシャンと音を立てた。
男が顔を上げる。
あぁやっぱり、『鬼』だ。
どうしていいやら分からず、黙っていると『鬼』は口を開いた。
「へッ…何度言っても俺ァザビー教に入る気はねぇぜ」
嘲りを込めた声が降り注ぐ。そうじゃないと伝える為に、私はふるふると首を振った。
「ぁん?じゃあ何だ」と『鬼』こと、長曾我部元親が言う。
「散策していたら、貴方を見つけただけ」
そう告げると、眉を寄せて、それからすぐにハッと表情を変えた。
「あんた、名前は?」
「、です」
「、か。俺は長曾我部元親だ」
「長曾我部…」
あぁ、まさか、アニキに自己紹介をするとは思ってなかったな。
だって、こんな牢屋にいるなんて思わないよ。
カシャカシャ、と何度か鉄棒を揺さぶってみる。
もっと近くで彼を見てみたいのに、この牢は壊れそうにない。
牢を壊すのを諦めて(元々そんな事は出来ないけれど)、改めて『鬼』を見る。
「なんつーツラしてんだ、あんた」
ぷはっと笑う長曾我部元親。なに?と首を傾げれば、
「あんたのほうが、牢ン中に入れられてるみてぇな顔してんぜ」
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