竜の誘い
「はぁ…」
相変わらず半壊のままの部屋、ベッドの上で考える。
とりあえずこのザビー教団の場所には、居たくない。
っていうか、何処に行っても気まずそうだ。
自分の居場所は、自分で掴み取るもの。
理屈は分かっていても、何だか受け付けられない。
居場所がない、って思いのほうが強すぎる。
馬鹿だなぁ…。
違う世界に行きたいって思ってたくせに、いざ来たら今度は居場所がない、か。
自分で自分が、嫌になる。
ごろごろと寝返りを打って暗い気持ちを振り払おうとした。
こっちに来て一つ良かったのは、おっきいベッドに寝れたことだろうか。
どーでもいー些細な幸せだなー。
ごろごろ、ごろごろ。
「Hey,princess.楽しいかい?」(よぉ、姫さん。)
「っ!!」
突然、闇夜から声がした。がばっと起き上がる。
この声は…。
「伊達政宗…様?どうして此処に…」
「アンタと話してみたくてよ。…knockもせずに入っちまったのは謝るぜ。なんせ叩くdoorが無くってな」
と軽口を言いながら伊達氏が月明かりのもとに出てくる。
いつもの鎧と兜を脱いで、ラフな格好だ。伊達氏は崩れた壁の一つに寄りかかった。
「驚かせたか?」
「ええ、まぁ…でも、大丈夫です。それで、話って…?」
「…長曾我部からの文の最後に、アイツが書いたとは思えないものがあった」
やっぱりその話か。私は文の最後に一つ書き足したのだ。…英語で。
「Please don't kill the people anymore.アイツが異国語を知るわけがねぇ。(どうかこれ以上国民を殺さないで。)
でもって、この文を猿に渡したのはアンタだ。…アンタが書いたんだろ?」
「…えぇそうです。確かに私が書きました」
「此処に居たんだ、異国語の一つや二つは書けるだろうがよ…。
どういうつもりで書いた?オレたちは武士だぜ」
人を殺すのは、当然だ。
「分かってます。でも、うまく、言えませんが…
例え敵であれ味方であれ、同じ日本にすむ仲間で、人間なんです。ただ、仕えてる人が違うだけで…。
だから、その…例えば、伊達様が天下統一をしてしまえば、他国の兵士だって、ゆくゆくは自国の兵士…民でしょう?
だったら、自国の民になる者を殺すのって…悲しいです。殺すな、なんて言えません。
でも、兵卒の被害は最小限に抑えてくれたら、いい…って」
身勝手な願いですと俯く。
「すみません。ちゃんと伝わるよう、まとめられなくて」
「…いや」
「ただ一人でも多くの人間が、生きて平和な世を迎えられたら、と」
「そうか」
それから長い沈黙。
「…オレは天下を一つにする。そして、平和な世を作る」
「はい」
「絶対だ」
絶対自分が成すのだ。と、強い決意を感じる。
やっぱり、凄い人だ。
「アンタは異国語が話せるし、なかなか面白ぇヤツだ。行く宛に困ったら、オレんとこに来たっていいんだぜ」
本当はこれを言いに来たんだ、と笑う伊達氏。
「え…ホント、ですか…?」
「嘘は言わねぇ」
「っ、ありがとうございます…!」
とりあえず、路頭に迷うことはなさそうだ。
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