少女と猫







only lonely

“それ”は“アイネ”といった

意味は「ひとり」



それは

only(たったひとつの存在)

lonely(たった独りの存在)



アイネは子供である


世界の子である

夢見る子である

歪んだ子である


そして、


大人になれなかった子である

“世界”がそう望んだからだ



アイネは世界を見てまわる

意味はない


ツギハギのお供<ヌイグルミ>を片手に引きずって

アイネは今日もひた歩く




逸レタ

 しとしと、しとしと、雨が降る


アイネは大きな木の下で雨宿りをしていた。


 ふぅ、と小さな唇からため息がこぼれる


突然の雨に、ツギハギお供とはぐれてしまったのだ。


 きゅ、と小さな手のひらを握りしめる


寂しくない。ウソ。不安でたまらない。


 しとしと、しとしと、雨は降りやまぬ


この雨が止んだら、ツギハギお供を探しに行こう。




小王

片隅の世界に一匹の猫がいた。

その頭(かしら)には小さな冠を乗せていた。


ともかく気まぐれで、

近づくものにじゃれつくかと思えば引っかき、

寝ていたかと思えば散歩に出る。


自由気ままに生きる小さき王であった。


猫にとって世界は自分を中心に回っている。

決して真実ではないが、小さき王の小さき世界では確かなことであった。




夜満チル時

アイネは草原を歩く。ツギハギお供を引きずって。

アイネは一匹の猫に出会った。


「こんばんは、猫さん。いい月ね」


雲ひとつない空には煌々と青白く輝く満月。地表に慈愛の眼差しを注いでいた。


「気安く話しかけるでない。我輩は王であるぞ」

「王様?猫さん、王様なの?」

「そうだ。この見渡す限りの大地、空、全てのものが我輩の王国なのだ」


猫は冠の乗った頭を、胸を、エヘンと反らせた。

アイネはパチパチと瞬きを繰り返す。

次第に笑みを大きくさせ、ツギハギお供の両手を取って拍手をする。


「それ、スゴイ!」

「そうだとも。小娘よ、我輩の領土を通りたくば何か献上するのだ」

「献上?あたし、何も持ってないの」

「なに」


困り顔のアイネ。

呆れ顔の猫。


「よし、なれば小娘。献上品を差し出すまでついてゆくぞ」

「来るの?一緒に行くの?」

「行くとも。我輩が行けばそこが領土となるのだ」



こうしてアイネとツギハギお供と猫は共にゆくことにした。




移ロウ命

 消えたって。消えたんだって

“片隅”に漣(さざなみ)のような囁きが聞こえる。


 兎が、兎が、居なくなったって。どっか行ったって

“世界”が密やかに笑う。


 ヨカッタネ。よかった。バイバイ。元気でね



アイネはお供に聞いてみた。


「どうして兎は消えてしまったのかしら」


ツギハギお供は答えない。猫は答える。


「此処に在る必要がなくなったのだ」

「必要ないと居なくなるの?」

「そうだな。また此処ではない何処かに必要とされて行くのだ」


猫は鷹揚に頷く。アイネは首を傾げる。


「何処かって、ドコ?」

「我輩も知らぬ。だが、兎は今も何処かに在るのだ」


アイネは曖昧に頷いた。猫は鼻を鳴らした。


「“この世界”で消えたという事は、“何処か”へ行ったという事だ。わかるか小娘?」

「…わかるよ?」

「怪しいものだな」


アイネはむぅと唇を尖らす。


「“此処”に居なくとも、“此処ではない場所”に必ず兎はいるのだ。存在が消える事などない」

「でも、いいことなの、それ?」


その一言に猫は言葉を詰まらせる。アイネは答えを待つ。


「うむ、それは…知らぬ」

「わかんない?」

「うるさいぞ小娘。いいか、我輩が分からないのではない。物事のとらえ方は様々なのだ」

「なぁるほど」





“この世界”で消えることは、悲しいことじゃないよ。

見えなくても“何処か”に居るから。きっと、いるから。





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