双子と鷹と狼
手ヲ取リ合イ
双子がいた。ひとりは男。ひとりは女
ひとりはルオン
ひとりはハラン
二人は手をつないで世界をゆく
「ここは寒いね、ハラン」
「ここは暑いね、ルオン」
「暖かいところへ行こう」
「涼しいところへ行こう」
さぁゆこう
別々の理由なれど
二人は手を繋ぎ共にゆく
永久に離れぬ指だから
触レテ
双子は微笑み合う。
手と手をつなぎ、額と額を当て、間近には同じ見目形。
ルオンは楽しそうに笑う。
「だーい好きだよ」
ハランは静かに笑う。
「…大嫌いだよ」
その口調は、どちらも酷くやさしいもので
「俺も大嫌いだ」
「私も大好きよ」
言葉など元より意味はなく
『“だから”ずっと一緒に居ようね』
ただ意味があるのは
眼差しや仕草、声音だけで
西ヘ東ヘ
ハランが静なら
ルオンが動
ハランが陰なら
ルオンが陽
そんな異種同一的存在。
「ハラン、今日はどこへ行こうか」
「…南がいいな。寒くなってきたから」
「俺はむしろ暑いけど」
「我慢」
「ちぇ」
「…次は好きなところに行っていいから」
「よしきた」
今日も、ニコニコ笑顔と薄い笑みが手をつなぐ。
弔イ
月のまあるい夜。猫とアイネが話している頃、また別の場所。
山。葉を落とした枝の上、一羽の“鷹”が止まっていた。
鷹は常に独りを好み、空高くあった。
「お前が地上にいるとは、珍しいな?」
うっそりと話しかける影があった。
その姿は獣。色褪せた毛並みの、“狼”。
互いは孤独を愛する捕食者であった。
「…まぁね」
鷹は羽の下をクチバシでいじりながら答えた。
狼は鷹の止まる木の下にゆっくりと腰を下ろした。
「“世界”が騒いでいる。兎が消えたそうだ」
「俺にも聞こえてるよ」
「…それはそうだな」
低く鳴いて答える鷹に狼はフッと笑う。
世界の声は、世界に居る限り誰にでも届く。
狼は尻尾をゆらりと揺らした。
「悲しくはないか」
「何が?」
「好いていたのだろう?」
「…さぁ。向こうが勝手に好きだっただけだよ」
「そうか」
鷹はニヒルに哂った。
だがその声は悲しみに満ちたものだった。
狼は指摘しなかった。
「思ってやれ」
「は?」
「これから先、お前は兎を忘れるだろう。なら、今ぐらいは思ってやれ。
それがせめてもの、手向けというものだろう」
それだけ言うと、狼は去っていった。
鷹は黙っていた。ずっと。兎を思っていた。
鷹さん、鷹さん
こんばんは、会いたかった
どうやら、好きみたいなんだ
あの空に、連れて行ってくれたらいいのに
兎は本当に空へ。否、その彼方へ行ってしまった。
鷹は低く唸るように鳴く。泣く。啼く。
「さっさと攫ってしまえば、よかったな」
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