少女と猫と双子







A strange march

ハランとルオンは出会った。

ある晴れた日のこと。

アイネと小さき王に出会った。


「いい天気だなぁ」

「・・明日も、晴れるよ」

「しばらくは続くだろうな」


他愛なく話す双子。

小さな丘を越えたとき、誰かがいるのに気づいた。


「誰だろう?」

「わからない」

「「君は誰?」」


空を見上げてはしゃぐ少女に話しかけた。

少女は双子を見た。楽しげな笑みはそのまま。


「あたしはアイネ。こっちが王様」


少女が両手で持ち上げ二人に掲げて見せたのは

頭に王冠をのせた黒い猫。尊大に腕を組み、鼻をフンと鳴らした。


「我輩は小王である。名を名乗るがよい!」


見下す態度も、猫の姿では可愛げが勝る。

双子は「かわいい」と思考をシンクロ。

ただし、顔には出さずに律儀に答える。


「こっちがハランで」

「こっちがルオン」


双子は互いを指差しながらそう名乗った。


「こっちがハランでそっちがルオン?あっちがルオンでどっちがハラン?」

「小娘、既に混乱しておるぞ」

「うんん…?」


猫の口からため息が漏れた。


「どちらでも良いではないか。こやつらは“二人でひとつ”なのだ。

…名前など間違えたところで差異はあるまい?」

「まぁ…そう言われると」

「そう言っちゃあ、そうだけどね」


どちらでもかまわない、とルオンは笑う。

好きに呼べばいい、とハランは呟く。

小さき王はひとつ頷いた。

混乱の解けたアイネが表情を綻ばせ、


「よろしく、二人とも!」


と言う。口々に「よろしく」「よろしくな」と返ってきた。

楽しそうに笑いながらアイネは話を転換。


「あたしたち、旅してるのよ」

「へぇ、俺たちもだよ」


「個とは常に生命の旅をしているのだ」

「…興味深い。さすが王様、博識」

「当然だ」



様々な話題が飛び交い、ふと一言。


「ところで、あたしたちドコいくの?」




終わりと始まり

――― アイネ



少女は、ふっと行進をとめた。

ルオンが、ハランが、小王も立ち止まる。


「「アイネ?」」

「どうしたのだ」


少女は空を仰いだ。

声がする。



――― アイネ



「ママの声がする」



――― アイネ



「あたしを呼んでるわ」

「行くの?」「行くんだね?」「行くのだな?」


二人と一匹が首をかしげて尋ねる。


「うん、行く」


それじゃぁ、と双子は一歩下がる。


「俺たちは西へ行くから」「私たちは東へ行くから」

「…ちょっと、ハラン。次は俺の好きな所って言ったろ?」

「…そうだった」


また会えたら、なんて誰も言わなかった。


「「じゃあね」」

「さらばだ」

「バイバイ」


双子は東の方へ。

アイネはママの方へ。


「さて、どちらへ向かうのだ?」

「王様?」


アイネはびっくりして目をまんまるくする。

小王はフン、と鼻を鳴らして言う。


「小娘だけで行けるものか。我輩も行こう」

「王様も一緒?」

「そうだ」


心強かろう?と胸を張る小さい王。

アイネはびっくり顔を綻ばせて、


「あたし、うれしい!」

「よ、よせ!我輩を殺すつもりかぁっ」


それから、喜びを力いっぱい抱き寄せる声と圧死させられる悲鳴があがった。




一緒

空の星たちが眠りにつき始めた頃。

月が黎明に薄れる、ママの所へ往く途中。


「…♪・・・・・・・〜♪♪」


アイネは歌を口ずさみながら軽やかなステップで往く。

その滅茶苦茶なダンスのパートナーは小さな王様。


「ウレシイな、うれしいなぁ」

「…やれやれ」


小娘は元気だな、と小王は溜息。


「だってうれしいんだもの!王様が一緒なのよ?」


アイネはニコニコ笑顔で言う。

小王はむすっとした顔で言う。


「…置いてきて良かったのか?」

「なぁに?」

「小娘のお供よ」


ツギハギお供は、アイネが途中でお留守番に置いてきた。


「良いの。だって王様がいるもの」



王様だったら、返事を返してくれるわ。王様だったら、話し掛けてくれるもの

王様だったら、質問に答えてくれるわ。王様だったら、遊んでくれるもの



「だから王様がいいの」

「…そうか」


やっぱり笑みを浮かべて言うアイネ。

しかし小王は何だか居心地が悪そうにする。

アイネはピタリと足を止め、不安げに小王の顔を覗く。


「…嫌だった?王様はイヤなの?」

「そういうワケでは…」

「やっ!ハッキリ言って!」


アイネは無意識に腕に力を込める。

小王は苦しげにうめいた。


「う…分かった、言うから、腕、腕をっ…」

「あ、ごめん…」


猫は緩んだ手の間からするりと抜け出して着地。

念入りに乱れた毛並みを整えて言う。


「…嫌ではない、ぞ」

「ホント?」

「あぁ」

「ホント?ホントにホント?」

「っ、しつこいぞ小娘!嫌いではないと言ったら嫌いではないぞ!」


と、叫んだ後に我に返った小王は恥ずかしくてそっぽを向いた。

対してアイネは感無量と言った様子で小王を持ち上げる。


「あたし、やっぱり、王様が大好きよ!」


そんな事を大声で言うな!とビックリして王様は声を裏返した。




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